小児科臨床第51巻増刊号[小児科外来医療の新たな展開] 

 自動電話予約システム 

(医)若葉台クリニック(小児科) 院長   鈴木信子
 愛知医科大学産婦人科 助教授     鈴木正利
 
はじめに  

 
 欧米諸国でHome Doctorに受診する時は、あらかじめ電話などで予約をして指定された時間に診察・育児指導・予防接種などを受けるのが普通で、日本のような予約なしで数十分から場合によっては何時間も待合室で診察を待つことはあり得なく、日本の医療の歪みとされている。米国では夜間緊急時にHome Doctorと連絡が取れない時は、大病院のAmbulatory Clinicに受診し、カルテ・検査データなどはコピーされて患者に渡され、数日後にHome Doctorに再受診することで、病診連携は比較的スムーズに行われている。日本でも慢性疾患の患者で定期的に来院することがあらかじめ分かっている場合には予約制が定着しつつある。しかし当日の予約制に対しては人海戦術で電話を受け取る煩わしさのために、一部の開業医で取り入れられているが、大病院ではほとんど普及していない。

 当院では、日本で最初(平成3年10月)にプッシュホンとパソコンによる自動予約システムをNTT-IT(横浜)と共同開発し運用したので、その電話予約システムの概要を紹介するとともに運用上のメリット・デメリットについても述べさせて頂く。

自動電話予約システムの開発の動機  

 平成元年4月に自宅の北隣に無床で開業したが、夏過ぎまでは1日当たりの外来数は20〜30名前後で、待合室や駐車場も混まないゆったりとした診療をしていた。しかし、その年の冬期は外来数80〜100名と急増し、他の医院と同じ賑わいとなり、経営的に軌道に乗ったと安心したが、駐車場(職員用3台、患者用8台)はパンクし二つの待合室(通常の待合室とプレイルーム)には順番待ちの患者さんでごった返し、院内感染も危倶される状態になった。このため、診察予定時間も明記した受付順番表を作成し、待ち時間が長い患者は一時帰宅して頂くように受付で指導した。近所や自家用車で来院した方は、一時帰宅に協力して下さったが、バス、タクシーなどで来院された方はそのまま待合室に居座ることになり、根本的な解決にはならなかった。 
 
 当院では、患者さんの不満・苦情を収集するために投書箱を設置し、年2回のアンケートを施行しているが、アンケートに「病気の子供を連れてきて長い時間待合室で待たされるのは苦痛であるし、他の患者さんの病気が移らないか心配です」と書かれていた。個別に診察の合間に患者さんに聞いても、電話で当日の朝に予約を自宅から取りたい希望が強いことが分かった。大病院では慢性疾患向けに診察終了時に次回の予約ができるシステム(ノート記入法からオーダリングシステムの端末機から入カまで色々)が稼働しているが、一般の外来主体の小児科では感染症が主で当日の子供の状態で受診を決定されたいため、事前の予約制ではダメであることが分かった。

 しかし、診療開始前に電話で予約を受け付けるためには、受付事務員の中で早出当番を決め、朝8時ごろより電話を受けてもらう必要がある。当院の従業員ともいろいろ相談したが、受付事務員は昼間はパート主婦、夕方はパート女子大生で構成されているため、とても早出による人海戦術での電話予約は無理との結論になってしまった。パソコン好きの主人は、その当時すでにゴルフ場の予約がコンピュータ化されているのを知っていて、医療関係の予約も何とかならないかと日本IBMの知人に相談したところ、「ゴルフ場予約システムがオフコン(AS/400)と音声応答システム(ハードだけで約400万円)ですでに稼働しており、そのソフトを医療用に改造することは可能であるが、。ハードとソフトの両方ではとても1千万円でもできないでしょう」と一笑に付され、無床の零細開業医では金額的にもとても無理と諦めてしまった。 

 約半年後の1991年の6月に「アスキー」というパソコン雑誌にNEC98シリーズ用にNTTヒューマンインターフェイス研究所が非常に音声に近い音声ボードを開発し、NTT−ITから「しゃべりん坊HG」として発売した記事を主人が見つけ、電話をかけたところ、当院の開発意図に輿味を持って頂けて共同開発することになった。幸いなことにプッシュホン音であれば、パソコンに数字を信号化できる「NCUボード」も併売されたため、当院に合ったソフトカ澗発できる見通しとなり、主人は打ち合わせのために何回もNTT−ITに通った。ソフトが9月に出来上がり、その年の10月より1回線で稼働し始めた。しばらくバグつぶしと患者さんの間違いやすい個所を改良して、翌年の5月には、3回線同時対応にバージョンアップした。NTT−ITからは当院だけの特注品ではもったいないので市販したいとの申し出があり、他の病医院でも使えるようにいろいろな機能を盛り込み初期設定で選択できるようにし、「Drうける君」として世に出すことになった

自動予約システムの概要  

 当院の予約システムの簡単なフローチャートを図1に示す。患者さんは自宅もしくは出先よりプッシュ回線の電話機もしく。はプッシュ晋の出せるトーン機能付き電話機(留守番電話やFAX電話機などには標準装備)より音声メッセージに従って診察券番号(ID番号)と生年月日(PASS番号)を入れてもらう。IDとPASS番号が一致していれば、受付順に診察予定時問を音声で伝え、その時間の予約でよいかどうかの確認を再度数字で入カしてもらい予約を完了し、同時にカルテセレクターに信号を送りカルテが自動的に飛び出すようにした。

 当院の自動予約システムはあくまで当日予約に限定し、午前の診察申し込みは午前6:30より受け付け午前10時に終了、夕方の診察申し込みは午後2:30より受け付け午後5:30に終了する。受け付け時間は診察開始の3時間前からにしているが、朝食を作っている母親の代わりに出勤前の夫が予約をさせられていることが多いようで、あえて午前6:30という早い時間からの予約に設定している。電話での予約可能時間が早く終了するのは、診察開始後は直接来院の患者の予約と競合を防ぐためである。システムの電源のオンオフや受け付けの開始・終了は1週間タイマーとパソコンの内部時計によって無人で自動的に行われ、スイッチやキーボードに触る必要は全くないようにした。また、24時間運用でないため、1992年5月に更新した機器がまだ故障せずに現在も使用している(1998年8月に Compaq Workstatin に移行するまで故障なし)。 

 患者基本データ(患者氏名、診察券番号、生年月日、保険種別、最終来院年月日など)はレセコンより予約システムのパソコンヘ毎日夕方診療後に転送するため、初診の方も翌日から予約可能になる。「Drうける君」が現在対応できるレセコンは三洋富士通東芝、沖などであるが、相手のレセコンメーカーのデータ転送プロトコーノレと受け手のプロトコールを合わせるのはそれ程難しくはなく、相手のレセコンメーカーが逐次対応してくれる。予約患者一覧表はCRT(ディスプレィ)もしくは定時刻ごとに印刷されるため、カルテ揃えは非常に便利となり、当院ではこの予約一覧表を受け付けカウンター上に置いて診察終了患者は赤線で消すようにし、診察の進行度合いが来院患者さんにもすぐわかるようにしている。 

 当院では受付順に予約時間を5分ごとにアナウンスするように設定し、空枠を現在1時間当たり2名、かつ診察の遅れないように1時間当たり10名の予約、つまり6分当たりの診察時間であるが、アナウンスは5分ごととし、毎時5分と35分には患者を入れないようにして余裕を持たせている(つまり電話予約枠は1時間当たり8名となる)。アンケート結果からは予約の時間帯を患者さんが選べるようにして欲しい旨の希望も多く、ソフト化した。しかし、冬期は予約が満員になり空きの時間帯が発生しなかったが、夏期は空き時間帯が発生しやすく、従業員の勤務体制上からも結局受付順に予約する方式に戻している。さらに15分もしくは30分ごとの時間帯ごとにある一定の人数を予約枠として入れて運用したい医院も多く、初期設定で選べるようにした。ただ、この方式だと来院した順番を再度番号札などで確認する必要があって患者さんからのクレームが発生しやすいようである。また、複数科、複数Drにも対応希望がありソフト化したが、当院では小児科の私一人だけの診察のため、その部分も採用していない。また、2ヵ月先までの予約可能な機能も設定できるようにしてあるが、開発動機にも書いたように当日予約が当院のような地域密着型の小児科には一番合っていると考えられるので、その機能も当院では使用していない。つまり、一番primitiveな設定で当院は運用されている。 

 当初はNFC98シリーズのパソコンで開発されたが、第二世代の「Drうける君」はDOS/V機(Pentium系)としNTT−ITは価格を引き下げた、表1・図2・3は現在市販中「うける君」の主な仕様と構成図およびフローチャートを示す。現在、院内LAN対応の第三世代のWindows NT機対応ソフトを開発中で(Windows 95は業務用には安定性に欠けるためサーバーとしては不採用)、さらに多くの機能が追加される予定である
追記:平成13年9月から、発売元をNTT-ITから全国に支店のあるNTT-MEに移行し、ハード&ソフトの機能アップして「Drうける君2」として発売された。平成16年6月からは、NTT-DATAグループの一員であるロジカル(株)と提携し、Drうける君の機能を盛り込んだ音声認識+プッシュ入力両方可能な音声認識診療予約システム(CureSmile ver3)に至っている)

 

予約制のメリットとデメリット 

 予約制の最大のメリットは、患者さんのアンケ一ト結果からは「待合室・駐車場の混雑が解消し待合室での相互感染の心配が少なくなり安心して来院できるようになった」ことであった。次に「朝早くから順番取りに来院する必要がなくなった」や、「あらかじめ診察予定時間がはっきりしているため家事を済ませてから来院できる」等であった。また、時間がはっきりしているため、やや遠方と思われる患者さんも増加し、診療圏が広がった。プッシュ回線で自家用車を持っている方には非常に便利な小児科医院と思われたようである。 

  職員サイドからは、「来院予定患者一覧表により前もってカルテを取り出しておけるため、来院してから慌ててカルテ探しをしなくてすむようになった」ことであった。しかも、保険別、最終来院年月日が明示されるため、カルテ探しがスピーディになったと受付事務員には大好評であった。さらに当院ではカルテセレクター(トリム、Tel 03-3945-8611)も同時に設置したため、予約されたカルテは飛び出していて探す手間が非常に短縮できた。また直接来院された患者さんのカルテもテンキーですぐに検索できる。医師サイドでは、保健所・学校医の業務、医師会の会合、各種研究会などに出席しやすくなったことが最大のメリットであった。前日までに診療不可能時間枠を設定しておけば、その時間帯には患者は来院しないため、遠慮なく出席できるわけである。 

 予約制のデメリットは、直接来院の患者さんをすぐに診察してあげられないことと、緊急患者に対応ができにくいことである。このため、当院では1時間当たり10名のゆったりとした診察枠とし、異物誤飲や熱性けいれんなどがあれば、順番を飛び越して診察するようにしている。しかし、点滴、採血、レントゲン撮影などがあれば、遅れ気味になる。患者さんは予約時間にきっちりと診察されるものだとして来院されるため、遅れ気味の時は受付事務員は頭を下げっぱなしになるようである。遅れは昼食時間内に食い込んで診察して取り戻すことになるので、あらかじめ冬期は昼食時間を設定してバッファにしている。時間的にタイトな予約制で運用すると、患者さんからは逆に恨まれ、予約制そのものが崩壊しかねない。ということは、従来の予約なしの診察方法(待合室の混み具合で診察スピードを変えて大量の患者を診察)が逆にできないわけである。つまり予約制に移行すると1日当たりの患者数は一定化はするが、絶対数は減少することになる。特に冬期のインフルエンザのピーク時にはこの予約システムは患者さんの予約お断り機 (!)になってしまうようである。しかし、待合室での相互感染が減少したことは小児科医としては一番の収穫であった。また、予約ができなくて他の医療機関を受診されても、「予約制で安心して受診できる」と言って患者さんが戻ってくることが多いため、患者さんの二一ズに合っていたと感じている。

 当日予約制のため、電話が集中して話中が多いとのクレームに対しては現在3回線で対応しているが、第2世代機では4回線、第3世代機ではもっと多くの回線対応となる予定である。人間ではそれだけの人数を早朝から揃えることは無理があるので、自動化して良かったと思っている。当日以外の予約が可能と設定すれば混雑はある程度解消できるであろうが、逆にキャンセル率が上がるため、当院では当日予約のままで運用している。次に問題になったのは、このようなプッシュホンとパソコンを使った自動予約システムに対応できない患者さんがいることであった。若いお母さんは比較的すぐにこのシステムに対応して頂けたが、機械音痴の母親や祖母では予約を申し込むことができなく、相変わらず直接来院される方がみえた。現在当院の予約率は8割で、残りの2割を直接来院の初診と再診患者にとってある。本当は人間コンピュータ(受付事務員)が早出して予約を受け付ければ機械音痴の方も救済できるとは思っているが、パートの主婦や女子大生では無理のため当院では自動化に踏み切らざるを得なかったのが実状である。このため一部の患者さんはこのシステムになじめなくて他の医療機関に移行されたようである。しかし、「人間による予約では顔パスで割り込みが効くが、コンピュータはそのような理不尽なことはしないのでフェアーですね」と言われた患者さんもみえた。 

 プッシュ回線でない電話機はプッシュ音(ピッポッパ音)に切り替える操作をしなくてはならないが、その方法が分からない方が多数みえたため、解説のパンフレットを作成して配布した。パルス音(カタカタ音)をプッシュ音に変換できる装置も市販されているが、NTTの実験では変換率が90%前後で確実性に乏しいため、不採用とした。最近は多くの家庭でプッシュ回線化されたため、運用当初(平成3年)のような混乱は無くなっている。また、難聴のため、電話を使えない母親からの苦情に対してはFaxによる予約を例外的に認めたところ、これが障害者同士で評判となり現在数家族がFaxでの予約を利用されている。このように脱落しやすい障害者のいる家族には予約しやすい例外的な環境を作ってあげるべきであろう。

将来の予約システム構想  

 電話を便用した自動予約システムは患者さんだけでなく医療サイドからも歓迎され、多くの施設でこの「Drうける君」が採用された。また最近は4社ほどから似たような機能を持ったゾロ品が市販されるようになり、着眼点が良かったと主人は自負している。ただ、後発品の中にはあまりにも機能を盛り込みすぎてバグ取りも不完全で市販されたため、途中でfreezeしやすく注意が必要で業者の甘言には編されないようにすべきであろう。やはり、業務用ソフトはしっかりとバグ取りがしてあり、予約途中でダウンしないことが大切で、データも二重化すべきである。現在DOS/V機では管理できるメモリーに限界があるため、Windows NTへの移行をはかっている。Windows 95は、実際に使用されている方はよくご存じであろうが、Macintosh OSと同じくらいにfreezeしやすくとても業務用には向いているとは思えない、Windows NTに乗った「Drうける君」は今までの機能の他に院内LANに対応し、一般診療は当日予約で、予防接種は種類別予約と数週間前からの予約も可能などその病・医院に合わせた複数の設定が可能になる予定である。また、同時接続可能な電話回線も多くなり、処理能カは数段と向上する予定である。また、相手電話番号通知機能も活用すれば、新患患者を装ったいたずら電話による空予約も未然に防げるため、新患の予約も安心して受けることが可能になると考えている。(追記:平成13年9月より、これらを実現してハード&ソフトを改良した「Drうける君2」を全国に支店のあるNTT-MEに発売元を変更して市販された。平成16年6月からは、NTT-DATAグループの一員であるロジカル(株)と提携し、Drうける君の機能を盛り込んだ音声認識+プッシュ入力両方可能な音声認識診療予約システム(CureSmile ver3)に至っている) 

 ただ、電話の音声で予約を確認するのは、このMulti-media時代では時代遅れで、いずれはインターネットを利用して画面上で空き枠を確認しながら予約する時代になると思われるが、患者データを盗まれないためのセキュリティとインターネットの普及率の点からまだ現時点では時期尚早と考えている。1997年7月の当院のアンケート結果では、受診患者約1,000名余りで自宅でインターネットに接続している患者さんは30名余りのみでとてもまだ無理であった。移行するとしたら電話とインターネットの両方で同じ予約機能ができるようにしなくてはならないため、現実的には大変なシステム開発費用となってしまう。しばらくはこのよ うな電話での予約システムが続くものと思っている。(追記:1999年7月の当院のアンケートでは、32%の患者さんの家庭でインターネットに接続可能と答えているので、breakthrough point は近いと思われる)

おわりに  

 21世紀に向けて医療は大きく変貌すると言われている。当院の自動電話予約システムは患者さんの二一ズに呼応して開発された。予約制診療のために、このようなパソコンを利用するか、人海戦術にするかは個々の医療機関のおかれた状況によって異なるとは思うが、小児科の外来診療が予約制に移行するのは時代の趨勢と思われる。当院では現在電子カルテの開発を模索中で、医師と患者さんのためになるならば、このようなコンピュータ化は避けて通れないと考えている。 

 なお、当院の予約システムについてはインターネット上でその内容を開示していますので、ご参照下されば幸いです
 

        文   献 

1)鈴木信子、鈴木正利:電話とパソコンの診療予約システム。第2回日本外来小児科学研究会抄録集、p.25, 1992
2)医療パソコンの実際N診療時間自動予約システム。モダンメディシン 22(4):88-89, 1993
3)鈴木信子、鈴木正利:パソコンとプッシュホンによる電話予約システム。周産期医学 23(9):1355-1359, 1993
4)予約制一電話による音声応答で診療予約一。開業医へのステップ pp. 156-159, JAMIC(日本医療情報センター)東京、1993
5)鈴木信子、鈴木正利:外来診療におけるコンピュータ利用。小児内科 25(増刊号): 96-103, 1993
6)鈴木信子:パソコンとプッシュホンによる電話自動予約システムの紹介。日本小児科医会会報 9:111-113, 1994
7)鈴木正利、鈴木信子:小児科診療におけるパソコンの利用。第25回日本小児科学会セミナー(札幌)資料集  p.40-50, 1995